ひとり親になった直後の手続きのうち、保険と年金は後回しにすると穴があく種類のものです。子の保険証が使えない期間ができたり、年金に未納の月が残ったりします。しかも、どれも「向こうから案内が来る」とは限りません。
わたしは制度の名前を覚える余裕がなかったころ、役所でもらった冊子に付箋を貼って、次にどの窓口へ行くかだけをメモしていました。この記事は、その付箋の中身を、保険・年金にしぼって整理したものです。
役所の戸籍・住民票まわりは役所でやる手続き編に、手当の申請は手当を申請する編にあります。ここは保険と年金の窓口でやることだけに絞ります。
この記事は、公的機関の情報と自分の経験にもとづく「進め方の整理」です。期限の日数や必要書類、金額は、年度・勤務先・自治体で違います。最終的な内容は、必ず年金事務所・勤務先・自治体の窓口や公式サイトで確認してください。個別の相談は、それぞれの窓口や専門家へどうぞ。
ひとり親で関係する保険・年金は3系統
まず全体像です。ひとり親になったときに動かす保険・年金は、大きく3つに分かれます。
- 健康保険:子を自分の扶養に入れる(または元配偶者の扶養から外す)
- 国民年金:自分の加入区分を変える/払えないときは免除を申請する
- 遺族年金:配偶者を亡くした場合に請求する
このうち1と2は、離婚でも死別でも、多くの人に関係します。3は死別の場合の手続きです。順番に見ていきます。
① 健康保険:子の扶養を自分に移す
会社員・公務員の場合
勤め先の健康保険に子を入れる(被扶養者にする)手続きをします。窓口は勤務先の総務・人事です。自分で年金事務所へ行くのではなく、会社を経由して届け出ます。
この届は、扶養の事実が発生した日から5日以内に会社経由で出すのが原則とされています(健康保険法上の目安。実際の締切や必要書類は勤務先で確認してください)。数字だけ見ると厳しいのですが、要は「離婚・死別が決まったら、できるだけ早く会社に言う」ということです。
遅れると、扶養に入れたと認められる日(認定日)がうしろにずれることがあります。その空白の期間は、子が国民健康保険に入って保険料がかかる扱いになる場合があります。あとから戻す手続きも増えます。だから、気持ちの整理がつかないうちでも、健康保険の扶養だけは早めに会社へ伝えておくほうが楽です。
必要書類の目安は、離婚や死亡が分かる書類、子のマイナンバーが分かるもの、本人確認書類などです。何が要るかは勤務先で変わるので、まず「子を扶養に入れたい」と一言伝えて、リストをもらってください。
自営業・無職の場合
国民健康保険は世帯単位です。世帯の状況が変わったら、自治体の国民健康保険の窓口で世帯や加入者の異動を届け出ます。世帯主の変更(→役所でやる手続き編)と一緒に案内されることが多いです。
もともと元配偶者の会社の健康保険に子と一緒に入っていた場合は、その扶養から抜けた証明(資格喪失証明書など)を先にもらう必要があります。これが届かないと国民健康保険への切り替えが進みません。離婚・死別の話が固まった時点で、「資格喪失証明書を出してほしい」と相手方または相手の勤務先に伝えておくと、あとの流れが止まりにくくなります。国民健康保険には、所得が下がったときの保険料の軽減・減免の制度もあるので、窓口で「ひとり親になって収入が変わった」と相談してください。
離婚のとき気をつけること
子が元配偶者の扶養に入ったままだと、二重加入になったり、あとで保険証の返却を求められたりします。「自分の保険へ入れる」と「元配偶者の扶養から外す」はセットだと考えて、どちらの手続きも進んでいるか確認してください。元配偶者側の手続きが止まっていると、こちらの認定も進まないことがあります。
② 国民年金:加入区分の変更と、払えないときの免除
加入区分を変える
配偶者に扶養されていた人(国民年金の第3号被保険者)は、扶養から外れると第1号被保険者に変わります。この切り替えは自治体の国民年金の窓口で届け出ます。会社員としてそのまま働き続ける人(第2号被保険者)は、勤め先の手続きで年金も動くので、自分での区分変更はいりません。
区分変更を忘れると、あとから「未加入・未納」の通知が届いて驚くことになります。役所で住民票まわりの手続きをするときに、「年金の区分は変えなくて大丈夫ですか」と一緒に聞いておくと安心です。
払えないときは「未納」にしない
第1号になって保険料の納付書が届いたものの、支払いが厳しい——このときに一番避けたいのが、そのまま放置して「未納」にすることです。
- 未納:その月は年金額に反映されず、将来の受給資格を数える期間にも入りません
- 免除・猶予(申請して認められたもの):受給資格の期間に入り、全額免除でも将来の年金額に一部が反映されます
同じ「払っていない月」でも、手続きをしたかどうかで扱いがまったく違います。ひとり親には所得の面で申請しやすい特例枠があります。区分・所得の基準・追納のしかた・将来の年金額への影響は国民年金の免除・猶予の記事に詳しくまとめているので、ここでは「未納のまま置かない」の一点だけ覚えて、まず窓口へ相談してください。
③ 死別のとき:遺族年金を請求する
配偶者を亡くした場合は、遺族年金の請求が加わります。ここは制度が2種類あり、父が対象になるかどうかで誤解が多いところなので、整理します。
遺族基礎年金は「子のある父」も対象
遺族基礎年金は、以前は「子のある妻」などに限られていた時期がありましたが、2014年(平成26年)4月から「子のある夫(父)」も対象になりました。父だから対象外、ということはありません。
- 「子」とみなされるのは、18歳になった年度の3月31日まで(障害等級1・2級に当たる場合は20歳未満)
- 子と生計を同じくする父または母がいる間は、子ではなく父(受給者)に支給される形になります
- 請求には時効があり、権利が発生してから5年です(遺族年金の場合は「死亡日の翌日」から数えます)。ただし、やむを得ない事情で請求できなかったときは、理由を申し立てることで受け取れる取扱いもあります。過ぎたと思っても、まず年金事務所に相談してください
遺族厚生年金もある(父に付かない加算に注意)
亡くなった配偶者が厚生年金に加入していた(会社員・公務員だった)場合は、遺族厚生年金も請求できます。金額は加入期間や報酬の記録によって変わります。
ひとつ知っておきたいのが、「中高齢寡婦加算」という上乗せは妻が受ける場合のもので、父(夫)には付かないという点です。妻向けの解説記事をそのまま読むと「自分にも加算がある」と思ってしまいがちなので、金額の見込みは年金事務所で自分の記録をもとに確認してください。
請求先と準備するもの
窓口は年金事務所または街角の年金相談センターです(国民年金だけの加入だった場合は自治体)。準備するものの目安は、基礎年金番号が分かるもの、戸籍や住民票、死亡診断書のコピー、請求者と子の関係が分かる書類、振込先の口座などです。必要書類は状況で変わるので、電話で「遺族年金を請求したい」と伝えて、持ち物リストと予約を取ってから行くと、往復が減ります。
葬儀や役所のおくやみ手続きと時期が重なって、余裕がないと思います。遺族年金は当日中に終わるものではないので、まず相談の予約だけ入れておく、くらいのペースで大丈夫です。役所の「おくやみコーナー」で遺族年金の予約まで取り次いでくれる自治体もあります。
なお、亡くなった方が国民年金だけの加入で、遺族基礎年金を受け取れる遺族がいないときは、代わりに「死亡一時金」という一度きりの給付が関係することがあります。どの給付に当たるかは加入記録で変わるので、窓口で「どの給付の対象になりますか」とまとめて聞くのが確実です。
障害のある子がいる場合:特別児童扶養手当
保険・年金とは窓口が別(自治体の福祉の担当)になりますが、関連するので触れておきます。
特別児童扶養手当は、20歳未満で、身体または精神に重度(1級)・中度(2級)の障害がある子を育てている父母などに支給される手当です。所得制限があり、金額は年度で改定されます。手帳の有無だけで決まるわけではなく、専用の診断書での判定になります。心当たりがあれば、福祉の窓口で相談してください。
つまずきやすい所(先輩の手帖)
- 会社に言わないと、健康保険は動きません。 案内は待たない。気持ちの整理より先に「子を扶養に入れたい」の一言だけ先に伝える
- 保険証が手元に届くまで、タイムラグがあります。 その間に受診したら、いったん立て替えて、あとで払い戻しの手続きになることがあります。医療機関の窓口で「保険証の切り替え中」と伝えておく
- 年金の区分変更は、忘れたころに通知で気づきます。 役所で住民票を動かすときに一緒に確認しておく
- 遺族年金は「相談の予約」からでいい。 一度で終わらせようとしない
チェックリスト
年度・勤務先・自治体で扱いが変わります。最後は必ず窓口で確認してください。
会社員・公務員の人
- ☐ 勤務先に「子を健康保険の扶養に入れたい」と連絡した(できるだけ早く)
- ☐ 被扶養者の届に必要な書類を勤務先から聞いた
- ☐ (離婚)元配偶者の扶養から子を外す手続きが進んでいるか確認した
- ☐ 保険証が届くまでの受診は、立て替え・払い戻しになる場合があると理解した
- ☐ 年金は勤務先の手続きで動くため、自分での区分変更は不要と確認した
自営業・無職の人
- ☐ 自治体の国民健康保険の窓口で世帯・加入者の異動を届け出た
- ☐ 国民年金の区分を第1号に変更した(自治体の窓口)
- ☐ 保険料の支払いが厳しいときは、未納にせず免除・猶予を相談する(→免除・猶予の記事)
配偶者を亡くした人(上に加えて)
- ☐ 年金事務所に「遺族年金を請求したい」と電話し、持ち物リストと予約を取った
- ☐ 遺族基礎年金は父も対象(2014年4月〜)と確認した
- ☐ 遺族厚生年金の見込みは、中高齢寡婦加算が付かない前提で年金事務所に確認した
- ☐ 請求には時効(権利発生から5年)があると理解した
制度の説明は以上です。わたし自身が、区分の変更をどの順で回ったか、窓口で何を聞かれ、どこで一度つまずいたか——その実際の流れは、有料note「シングルファザー、はじめの1年 ― 20年やってきて振り返る、手続きとお金でつまずいた話」(¥580)に書いています。
まとめ
- ひとり親で動かす保険・年金は3系統。健康保険(子の扶養)→ 国民年金(区分変更)→(死別なら)遺族年金の順で考える
- 健康保険は会社経由・早めに。空白期間は子の保険料負担につながる
- 国民年金は未納にしない。払えないなら免除の相談(詳細は別記事)
- 遺族基礎年金は父も対象(2014年4月〜)。遺族厚生年金の中高齢寡婦加算は父に付かない
- 数字と締切は年度・自治体で変わる。最後は窓口で確認する
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